統合失調症と当院での取り組み
はじめに
統合失調症は幻覚(特に幻聴)と考えの異常(被害妄想などの妄想)が主症状である、代表的な精神疾患です。発病率は約1%(100人中1人の割合)といわれています。10~30歳台に発病する事が多いですが、それ以降の年令でも発病する事があります。
10~30歳台は思春期が含まれ、就学や社会参加を通して人間的に最も成長するときです。毎日が忙しく、感動や喜びを感じる事が多い反面、挫折やつらい目に遭い、精神的なストレスを強く受ける事も多いのです。また、青年期は社会経験に乏しく、精神的なストレスへの耐性が低いと言えます。
統合失調症の発病では内因的な要因(元々統合失調症などになりやすい脳や心の性質、体質)に精神的なストレスが加わることによると考えられていますので、10~30歳の青年期は発病しやすい時期と考えられます。
発病に気付く、主症状を知る
早期発見・早期治療が重要であることは言うまでもありませんが、本人も周囲の人も発病に気づくことが遅れることがあります。なぜなら主症状である幻聴や被害妄想は極めて主観的な症状であるため、家族や周囲の人には本人の症状が悪化し、行動や言動に変化が出るまで発見しにくい症状です。本人も自分に神がかり的な特殊な能力がついたように考えるなど精神の症状と捉えないこともあります。
本人や家族が気づくには統合失調症の主な症状(表1)を知らなければなりません。統合失調症の主な症状を記した表をご用意しましたので、受診時にご提示ください。そのため発病した本人が気づけるように学校教育の中で啓蒙活動が必要です。小学校高学年、中学、高校の授業の中で精神疾患に関する教育について早急に実施すべきことと考えます。
また、幻聴などは、本人のみが経験する症状なので家族など周囲の人はすぐには発病に気づきません。しかし幻聴が悪化すると本人に独特の変化がみられ、発病に気づくことがあります。(表2)
発病を受け入れ、冷静に対応
次に大切なことは発病したことを受け止め冷静に現実的な対応することです。
まず発病したことを本人やご家族の誰かのせいにすること、宗教や超常現象のためなどと考えていけません。いつ、どの医療機関に受診させるかなど現実的な対応を行います。
専門医を受診し治療の方向性を考える
精神症状を重症か軽症か考える場合、精神症状に伴う行動の異常、一番悪いことは自傷や自殺など自分や他人を傷つける事ですので、そのような兆候が見られるときや今後そのような事が起こると想像される場合は入院が必要です。
担当した医師はご本人の状態を診て判断しますが、その際受診に至るまでの経緯について、ご家族の方が詳細にご説明いただく事が大切です。受診した時は冷静で一見しただけでは精神症状や言動や行動異常がわからない事がありますので、受診に至る経緯についてまとめたものがあれば非常に有用です。いくつか要点がありますので、 当院で使用している問診票 などを参考にしてください。
① 診察前問診票(詳細ページへ)
② 認知機能問診票(詳細ページへ)
③ 統合失調の主症状について( PDFファイル )
専門医を受診し治療の方向性を考える
精神症状を重症か軽症か考える場合、精神症状に伴う行動の異常、一番悪いことは自傷や自殺など自分や他人を傷つける事ですので、そのような兆候が見られるときや今後そのような事が起こると想像される場合は入院が必要です。
担当した医師はご本人の状態を診て判断しますが、その際受診に至るまでの経緯について、ご家族の方が詳細にご説明いただく事が大切です。受診した時は冷静で一見しただけでは精神症状や言動や行動異常がわからない事がありますので、受診に至る経緯についてまとめたものがあれば非常に有用です。いくつか要点がありますので、 当院で使用している問診票 などを参考にしてください。
① 診察前問診票(詳細ページへ)
② 認知機能問診票(詳細ページへ)
③ 統合失調の主症状について( PDFファイル )
心理教育を通して病気との付き合い方を知る
急性期が過ぎ、主な精神症状が半減したあとは内服薬の調整しながら、今後いかに統合失調症と適切につきあっていくかを考えなければなりません。
統合失調症は慢性疾患です。慢性疾患はその治療において、患者さんの「病気になりやすいという体質」を理解し、悪くしないように病気とつきあっていくという考え方が求められます。慢性疾患の代表として糖尿病があります。その治療の基本は食事療法を正しく行い、薬物療法で血糖値を正常域に管理することです。これは毎日のことですので「なぜ血糖値を正常にしなければいけないか。」十分に理解がないと継続が困難です。痛くもかゆくもないのに継続するにはよほどの理解が必要です。その理解をもたらすのは「糖尿病に対する教育や説明」です。このため多くの糖尿病専門医療機関が糖尿病教室を開催し、その理解を高める努力をされているのは皆さん周知のことと思います。
精神疾患でも同様のことが言えます。本人もご家族も精神疾患について症状、治療薬の効果、について十分理解しながら、悪化しないように生活することが必要です。精神症状の多くが極めて主観的であり、他人にはある程度悪化しなければわかりません。糖尿病と違い血糖値など医師と患者さんが共有できる客観的な数値がないのです。そのため患者さんが十分に精神症状について理解し、感じている症状や薬の副作用などについて言葉で表現できるようにしなければ医師や家族に伝わらないのです。
そこにはやはり「精神疾患についての十分な理解」が必須です。しかしながら精神症状や内服薬のことなど極めて基本的なことについて十分に理解がない患者さんやご家族様が意外と多いことも事実です。特に短期間で再入院を繰り返されている患者さんは十分な理解がなく「精神疾患についての十分な理解」が必要であることは明白です。そこで必要であるのは精神疾患に関して理解を深める説明や教育を行う事が必要です。
当院では医師や作業療法士、心理士などが多職種で心理教育を行っています。
心理教育について
内容
1.統合失調症の理解を深める内容
- 統合失調症の理解を深める:症状に対する説明:幻聴、妄想について
- 統合失調症の理解を深める:服薬の必要性
- 統合失調症の理解を深める:薬の種類
- 統合失調症の理解を深める:薬の副作用
- 統合失調症の理解を深める:病気が悪くなったことに気づくには (悪化のサイン)
- 統合失調症の理解を深める:悪化時の対応
- 統合失調症の理解を深める:悪化を防ぐ工夫
2.退院後の生活:生活に必要なもの
- 制度利用のための手続きをする、生活する場所、施設をきめる、毎日の過ごし方
3.退院後の生活:毎日の過ごし方、デイケアに参加する目的 良い利用の仕方
4.退院後の生活:生活する場所、施設について
5.社会資源の利用方法:生活を支援するサービス
- 誰に相談するのか 相談する窓口
6.社会資源の利用方法:生活を支援するサービス
- 福祉制度、手帳
7.訪問看護指導について
8.成人病(糖尿病、高脂血症、高血圧について)
9.栄養管理、食事療法について
10. 金銭の管理
11. 薬の管理方法:実践的な方法
12. 退院生活をしている方のお話:自由で有意義 自分に責任を持つ生活
13. 就労について:意義、楽しさ
14. 就労に必要なこと
心理教育とは精神疾患について他の患者さんと集団で学ぶ教室です。講師から精神疾患についての講義を聞いて基本的な知識を得ることがまず重要です。そして自分以外の他の患者さんの発表を聞いて、自分の症状や体験が自分だけに起こっている特別なものではなく、他の患者さん同じように悩んでいるものであることを知ります。さらに他の患者さんが行っている精神症状を良くするための様々な工夫を学びます。
社会参加(就労、就学)のためデイケアに参加する
一定期間をかけて薬物療法を受けながら、精神症状が改善し、悪化しないように病期とのつきあい方を理解したら、次に行う事は就学、就労など社会参加となります。病状改善が得られてもすぐに一般の就労や学業に戻ることは十分なストレス耐性がない状態では病状の再燃や自信喪失につながります。規則正しい生活を過ごし、年齢相応の人間関係を構築し、友人を作り、孤立を防ぐことは病状を安定させる上で非常に重要です。
病院として支援ができることとしてデイケア参加があります。実際に就職や通学することになってもその生活パターンはある程度決まっています。決まった時間に起床し、交通機関を利用して通勤し、学友や同僚と活動しながら午前中を過ごし、昼食後再び活動し、交通機関を利用して帰宅し、明日のために決まった時間に就眠する。健康な状態では通常に行えることも、病状が回復した直後では困難であることがあります。精神症状が十分改善し、内服薬も過剰でなく、適切な質や量でなければならず、デイケアに参加し、通院治療を行い、精神症状の悪化がないことを確認しながら内服の調整を行いつつ、生活のパターンを作りあげる事が必要です。これが出来なければ就労、就学の継続は困難となります。一定期間デイケアを利用し、生活パターンの維持をし、その後は自らが理想とする生活へステップアップしていくことが理想です。当院の「病気とつきあい自分の人生を生きていく。」という治療モットーはこのことを表現したものです。